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坊主丸儲けは間違い?「宗教法人と会社はなにが違うの?」を牧野誠司弁護士が解説

消費者庁に掲載されている「29 都道府県別の司法書士数と弁護士数の比較表」(※)によると、弁護士の東京・大阪など都市部への集中状況が見て取れます。「東京」では弁護士1人あたりの人口比率は「1,558人」であるのに対し、「島根県」では弁護士1人あたり「36,667人」と23倍も異なる状況があることがわかります。

このような状況を見ると、都市部における弁護士需要は「専門性の高さ」が求められるのに対し、地方都市では「幅広い対応」に需要があることがうかがえます。

そんな「幅広い対応」を求められる際、時には宗教法人からの弁護士需要もあるものです(こと歴史ある街京都では)。今回はそんな京都にて宗教法人からの案件も手がけられている伏見総合法律事務所の牧野誠司弁護士に「宗教法人と会社の違い」についての概論を解説していただきました。

http://www.caa.go.jp/seikatsu/shingikai2/kako/spc16/houkoku_c/spc16-houkoku_c-ref_29.html

宗教法人と会社との違いは?牧野誠司弁護士の解説

1 はじめに~宗教法人とは?

普通の会社(以下では、株式会社を想定して単に「会社」といいます)と宗教法人ってどこが同じで、どこが違うのでしょうか?その質問に無難に回答するとすれば「同じところもたくさんあれば、違うところもたくさんある」という、どうにもつかみどころのない回答になってしまいます。

――たとえば会社の計算書類としては「損益計算書」を作成すべきこととされていますが、宗教法人については、「収支計算書」を作成すべきとされています。

こういった「普通の人にはどうでもいいけど、結構重要な違い」というのはたくさんあるのです。しかし、こういった普通の人にはあまり関心のない違いを書いても面白くないと思いますので、皆さんが興味を持てそうなところに絞って、宗教法人と普通の会社の同じところ、違うところを説明したいと思います。

2 宗教法人と普通の会社が同じところ

まず普通の会社と宗教法人の同じところですが、宗教法人も個人とは別に存在する法人であり、(代表者個人の財産ではなく)その法人の固有の財産を持つことができますし、逆に借金の主体になることもできます。また、外部との契約も法人が主体となって締結することができます。

分かりやすく言うと、宗教法人も会社と同じように机や椅子その他の住居備品を法人名義で購入して保有することもできるし、リース契約も締結することができるし、借金をして不動産を購入することだってできるということです。つまり対外的な取引関係/権利関係という意味では、あまり会社と変わりません(商法が適用されるかどうか、などは違いますが、まぁ基本的には同じです)。

そして対内的つまり法人内部のガバナンス(統治)という意味では、会社は普段の日常的な業務遂行は代表取締役の裁量で決定し、それなりに重要な方針については、取締役会の決議で決定することとされています。

一方で宗教法人も普段の業務は代表役員(≒代表取締役)の裁量で決定し、重要事項は責任役員(≒取締役)によって構成される責任役員会の多数決で決定するとされていますので、かなり近似していると言えます。

3 宗教法人と会社が違うところ

(統治面での違い)

しかし、宗教法人と会社との最大の違いは、この「対内的」なありかた、「宗教法人の統治」の部分にあります。それを一言で言えば、「株主(出資者)がいない」という点です。このことを裏から、しかも分かりやすさのためにあえて語弊を恐れずに悪い方向に誇張して言えば、「責任役員会のやりたい放題」ということになります。

つまり、会社は、もともと会社設立や会社運営のために金を出資した株主が一番偉いのであって、法律上も株主が最終の意思決定権を有していますし、取締役会(運営者)も、最後的には株主には逆らえません。

しかし宗教法人には、そもそも「出資」という概念がなく、設立当初に責任役員として登録された運営者たち(責任役員会)が最高の意思決定権限を持ちます。したがって、責任役員会の判断を止める者は法律上全く存在せず、責任役員会は自らの信仰心や道義心や正義感で自らを律するか、あるいは、信者が離れるという心理的な抑制効果により、自己の行動の正当性を維持するということになります。

結局のところ、会社は「出資者を儲けさせるために存在する」存在であるのに比べ、宗教法人は、「個人的利益を超越した宗教の教義をひろめ、信者を教化育成する」ことを目的とした存在であることからくる違いです。

宗教法人の存在理由は、ある特定の「宗教」のためであり、その宗教をもっとも体現しているのは、その宗教法人の責任役員会であるから、その宗教法人の在り方は、責任役員会が決めるべき、という考え方で、宗教法人は設計されているのです。

(ここで「宗教」を中心に考えるのであれば、「信者」に最終決定権を委ねるべきではないかという意見も十分にあり得るところですが、誰が「真の信者」かを判断することは非常に難しく、信者が責任役員会以上の信仰心を持っている保証もないことから、現行法上は信者に最終決定権は委ねられていません。しかし私は個人的には、宗教法人の「民主化」は現代においては宗教のためにも是非とも必要なことであり、信者に一定の意思決定権、少なくとも責任役員ないし責任役員会の重要な行為に対する抑制権を付与すべきと考えています。他方で、宗教に対し民主制=多数の支配を導入するのは宗教の否定であるという意見もあるでしょう)

なお、宗教法人には上部団体が存在することも多く、その上部団体が下部団体の責任役員会の抑制力になることはありますが、これも法的な強制力までは有していないのが実態です。

以上のような統治における特殊性から宗教法人にまつわる紛争の多くは、「責任役員会と信者とその他の利害関係人との意見の相違を株主総会といったある種割り切った多数決で解決できない」ことを原因として発生することが多いです。

例を挙げると、責任役員会が宗教法人の財産の一部を売ろうとしているが、それについて信者の一部が反対し、それによって紛争が勃発するというのが典型例です。

特にそれが宗教法人発足時の初代の代表者の意思であれば、実質的な出資者(宗教法人に土地を提供した人など)が、その代表者本人であることが多いので、さほど周囲から不満は出ません。しかし現代表者や責任役員会の多数派がかつての代表者の相続人だったり、あるいは全くの部外者から招へいされた人である場合などは、周囲の不満も高まり紛争になる可能性も高まることが多いと考えられます。

このような紛争が生じないためには、責任役員が高い信仰心・道義心・正義感とともに、信者とのコミュニケーション能力を持っていることが必要です。一般的な宗教法人の責任役員の皆さんは、こういった性質・能力を有していることが多いので、平穏を保てているというのが実態と思われます。

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(税務面での違い)

次にご存知の通り、宗教法人の宗教活動に伴う収入には、税金がかからないとか、宗教法人の宗教活動のための固定資産には固定資産税がかからないというのが、非常に大きな特徴ですね。

ただこの点について注意が必要なのは、これは宗教法人の「法人としての収入や財産」には税金がかからないというだけであって、宗教法人から代表者(住職・牧師など)やその従業員に対して給与が支払われた場合には、その給与には普通に課税されます。

したがって税金がかからないから、「坊主丸儲け」などという誹謗中傷がなされることも多いですが、実際には宗教法人を支えている「人」は、さほど儲からないというのが普通です。

(営利性における違い)

お金の話が出たので最後にお金にまつわる重要な「違い」を記しておきます。

そもそも宗教法人というのは「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、および信者を教化育成することを主たる目的」とする団体として設計されていますので(法2条)、商業的な成功のための器ではありません。したがって中小の宗教法人はさほど儲かっておらず、むしろ全く儲かっていないところが大多数ですね。

「宗教法人は金になる」などというのは実際のところは虚像であって、宗教法人が個人の金を生み出すことを目的に使われているのであれば、それは間違った(場合によっては違法な)宗教法人の使い方であると思われます。

他方で、会社は法律上「会社の行為は商行為とする」という趣旨の規定(会社法5条)が置かれているように、言ってみれば「金を稼ぐことを目的とした器です」と法律上明言されているのですから、金を稼ぐためのものであり、金を稼ぐならやはり宗教法人より会社でしょ(その方がずっと金を稼ぎやすい)ということになります。

4 まとめ

以上の通り、宗教法人は何らかの宗教・信仰の基盤構築のために、会社と同じように財産を保有し、会社と同じように契約をし、会社と同じような運営組織を備えながら、その存在意義(ある特定の宗教・信仰のために存在するという存在意義)のために、責任役員会が最終の決定権を持ち、法人としての税金の負担は軽減されます。しかし他方で全く営利性を持たない(個人の金は稼ぎにくい)ものとして設計されています。

■著者紹介

牧野 誠司弁護士

伏見総合法律事務所ホームページ:http://www.fushimisogo.jp/

【共著】
・『倒産・事業再編の法律相談』(青林書院)
・『書式 民事再生の実務』(民事法研究会)
・『あるべき私的整理手続の実務』(民事法研究会)

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